ワインの醸造は化学と芸術。
分析を繰り返して品質を管理
樽熟成で味わいに奥行きを出す

TOMOÉシリーズが産声を上げたのは2008年。国産ワインブームの盛り上がりの中、各地の風土に合った個性や特性を求める声に応え、自らワイン原料であるブドウ栽培を手掛けて、三次ならではのワイン造りを始めました。

ワインは1年をかけてゆっくり仕込んでいきます。秋に収穫したブドウを潰して果汁を取り発酵させた後、数カ月熟成。オリ引き、清澄・ろ過をして、ようやく瓶詰めとなります。一連の工程の中で常に品質を担保するため、毎日テイスティングをし、色や香り、味の分析を行います。分析は、熟成中や瓶詰め前など、さまざまなタイミングで実施。1つのワインに対して何度も行い、データを残して管理をしていきます。

ワインは醸造工程において、発酵・熟成の期間や使用する容器が異なります。中でもワインに奥行きと複雑性を生み出すのが熟成過程。TOMOÉシリーズの赤ワインのほとんどはオークの木樽を使って熟成させています。木樽の良さは、木目から入るわずかな酸素によりゆっくりと酸化が進み、味わいにまろやかさを加えられること。併せて、樽ならではの芳ばしく甘い香りが現われ、それぞれのワインに変化をもたらします。

三次ワイナリーでは、香りは強めにするか、穏やかにするか、または、スパイス香にするか、チョコレート香にするかなど、出来上がりを想像し、新樽と古樽、小樽と大樽を使い分けながら、細部にまでこだわった醸造をしています。

味や香りを決めるのは経験と感覚
積極的ブレンドで新境地へ

ワインには、単一品種100パーセントで作るものと、目的やイメージに合わせて、複数品種をブレンドして造るものがあります。三次ワイナリーでは、ブレンドも積極的に行っています。ブドウの摘み取り時季やその年の気候などで、ワインに表れる果実のニュアンスは随分と変わります。そのため、目的に合わせてワインをチョイスし、どう掛け合わせるかを判断していくのです。例えば、野生的な味わいの小公子は単一ではクセが強すぎるため、マスカット・ベーリーAのほんのりとした果実味を加えゴージャスな味わいを演出し、より日本人の好みに合ったワインに仕上げることができるからです。

繰り返し何度もテイスティングをするのは、どういったスタイルで仕上げればこのワインが一番輝けるのかを見極めるためでもあります。どのワインとどのくらいの量をブレンドするか、醸造家の感覚と経験を頼りに、それぞれ持ち味を引き立てオリジナルの味わいを生み出す。まさに、芸術家の仕事としての結実が1本のワインなのです。

取締役 ワイナリー長 太田 直幸

1969年大阪府生まれ。1997年ニュージーランドへ渡り、ブドウ畑で働き始める。次第にワイン造りに魅了され、
ニュージーランドのワイナリーで働きながら、リンカーン大学で専門的に学ぶ。2012年末に帰国し、
2013年2月三次ワイナリーで働き始める。以後、独自のスタイルで新たなワイン造りに奮闘する、期待の醸造家。

お土産ワインからの脱却
新たな時代を切り開く

「ブドウが醸造現場に運ばれてきた時点で、ほぼワインの質は決まっている」。ワイン通の中では当たり前に知られていることです。醸造家はブドウの収穫時期を見極め、味の分析をし、理想の味を追求していく、いわゆるワイン造りの監督といえます。

私が醸造家を目指したのは30代のころ。農業をやりたいと、ブドウ畑で働き始めたのがきっかけです。経験や知識だけでなく、感性や表現力を必要とするワイン造りに魅了され、現地のワイナリーや大学で醸造方法を習得。2012年、帰国とともに三次ワイナリーに出会いました。第3セクターとして立ち上げられたこともあり、世間一般的に「三次のワイン」=「お土産屋さんのワイン」というイメージが根強く残っていて、このことが私のワイン魂に火を付けましたね。ニュージーランドで培った経験を活かして、本格的なワインを造り、日本ワインの底ヂカラを引き出したいと、この地での活動をスタートさせました。

「原点回帰」が太田スタイル
醸造家というプライドに懸けて

醸造家は、ブドウを見ただけでワインの味が想像できます。そのため、多少の傷や潰れも許されず、一房、一粒に細心の注意を払わなければなりません。就任後、まずはワイン造りの原点に立ち返り、ブドウ栽培から改革を始めました。「良質なワインを造るためには、良質なブドウが必要なんです」と契約農家さんに訴え、一枝から取れる房数を少なくしてもらったり、遅摘みをお願いしたりするなど、これまでと異なる栽培スタイルを要望。当然、最初は農家さんから反発も受けましたし、ブドウ畑で熱い議論を交わしたこともありましたね。しかし、私も遊びでワインを造っているわけではない。“広島の人が誇りに思えるワインを造る”という確固たる信念と情熱を見せ続けることで、次第に想いが伝わり、今では相互に協力し合えるまでに信頼関係を築けています。

上質なワインを造るためなら、いくら頭を下げたってかまわないと思っています。ワインはブドウが命。ブドウの質が高まれば、ワインの味も格段に良くなります。おいしく造ることこそ、醸造家である自分の使命。妥協を許してしまうと、飲み手を感動させる味わいなんて実現できないですから。

こうした情熱と信頼関係が形として表れたのが、2014年の国産ワインコンクール。「TOMOÉデラウェア2013」が銅賞・最高部門賞を受賞しました。その後も、数々のコンクールで受賞を重ね、今、三次ワイナリーの評価は確実に高まっています。TOMOÉは、ブドウ栽培にしても、醸造にしても、“人”の功績が大きいブランドです。農家さん含めて、醸造のスタッフがそれぞれのセクションでワイン造りに真正面から向き合い、互いにぶつかり合いながら一つのボトルを完結させていく。ここにTOMOÉの価値が存在します。

“ワインは人そのもの”
ボトルにあるストーリーを感じて

現代では、飲食店やスーパーなどで毎年同じクオリティのワインを安価で手に入れることができます。しかし、三次ワイナリーは、毎年同じ品質で作る必要はないと考えています。メルローだって、シャルドネだって、毎年香りや味が違ってもいい。お客さまの方も変化を楽しみにされているのはないかと思うのです。また、ワインは嗜好品です。ビールやウイスキーと同じかもしれませんが、唯一違うとしたら、物語があるということ。どんな人がどんな場所で、どんな風に作っているのか。この背景がプラスされて楽しめる、特殊な飲み物だと思います。ワインに出会うということは、人と出会うことと同じで、ワインを通じた造り手たちとの対話を楽しんでほしい。一口、二口と口に含むたびに、新たな発見があり、無限の宇宙が広がるはずです。ただ味わうのではなく、どこの産地でどんなブドウを使っているのかなど、ほんの少し意識を向けてみてほしいですね。きっと、いつも以上の味わい深さを感じると思います。

造り手として自信を持ってお届けするワインです。「シャルドネ新月」は、完熟したブドウを使用し、全房圧搾、樽発酵、シュールリーをしながらじっくり熟成させているので、重厚なスタイルのシャルドネに仕上がっています。食中酒はもちろん、ワインだけでも楽しんでいただけます。 大切な人との記念日など、特別な日に飲んでいただきたい1本です。